フロイトの名言「ときには葉巻はただの葉巻にすぎない」は本人の言葉?葉巻と生涯を検証

「ときには葉巻はただの葉巻にすぎない(Sometimes a cigar is just a cigar)」。精神分析の創始者フロイトの名言として、とても有名な一言です。しかしこの言葉、本当にフロイトが言ったのでしょうか。

広まっている話

よく語られるのは、フロイトが講義で、何でも性的な象徴に結びつけるのかと学生に問われ、自分の葉巻を指して「ときには葉巻はただの葉巻にすぎない」と答えた、という話です(細部は語り手によって異なります)。

検証すると「言った証拠がない」

ロンドンのフロイト博物館は、フロイトがこの言葉を言ったり書いたりした証拠はないと明記しています。英語の名言の出典を調べる「Quote Investigator」でも、文献に初めて現れるのは1950年で、フロイトの没後(1939年)10年以上あとです。心理学者アラン・C・エルムスの研究も、フロイトがこの言葉を発した可能性は低いと結論づけています。

理由の一つは、この言葉がフロイトの理論と食い違うことです。フロイトは、無意識の小さな行為にも必ず意味があると考えていました。博物館は、その考えに基づけば「葉巻は決してただの葉巻ではない」はずだと皮肉っぽく指摘しています。一方で、「彼の皮肉屋のユーモアなら言いかねない」とも添えています(諸説あり)。

本物のフロイトと葉巻

では、フロイト本人にとって葉巻は何だったのでしょうか。フロイトは24歳ごろから葉巻を吸い始め、友人のE・ジョーンズは「習慣というより中毒」と表現しました。フロイト自身は友人に、「葉巻は人生という戦いのなかで私を守る盾であり、武器でもあった」と語っています。

1923年に口腔がんと診断されたあとも、彼は葉巻をやめませんでした。16年間で33回の手術を受け、手術のあとは口が開きにくくなり、洗濯ばさみで歯をこじ開けて葉巻を吸ったと伝えられています。

フロイトにとって葉巻は「ただの葉巻」ではなかった

広まった名言は後世の創作の可能性が高いものの、本人にとって葉巻は生涯手放せない、特別な存在でした。名言をそのまま信じるのではなく、出典を確かめてみることで、もっと人間くさいフロイト像が見えてきます。

参考

ジークムント・フロイトの逸話一覧

イツワノ

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